744 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2008/06/24(火) 07:51:07.59 O
>>
348-351の続き
キッチンに行き、買い物袋の中身を出していると、後ろから愛斗が伺うように聞いてきた。
「ガキさんごめん。怒った?」
「別に怒ってないから」
「うそや、声が怒っとる。怒ってえんのやったらこっち向いてよ」
恥ずかしいやらムカつくやらで愛斗の方を向けずにいると、エプロンの端っこをクイッと引っ張っぱられる。
それに促されるようにゆっくりと愛斗の方を向くけど、なんとなく顔は見れなくて俯いてしまった。
「ほんとに怒ってないから」
呟くように言う私の顔を愛斗が不安げな目をしながらのぞき込んだ。
「ほんとに?」
「うん、怒ってないよ」
ただ恥ずかしかっただけ、悔しかっただけ。
いっぱいいっぱいな自分が。私の方が好きが大きすぎるような気がして。
そんなこと愛斗には言えないけどね。
「ならええんやけど…」
「ほら、始めるよ」
まだ疑っている様子の愛斗の肩をポンとたたいて笑ってみせると、それに答えるように愛斗も笑顔を向けてくれた。
745 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2008/06/24(火) 07:52:49.89 O
「よし!始めよっか!おいしいの作るぞぉ!」
「おう、俺は何したらええ?」
「う~ん、先にスープ作っちゃうからじゃがいもとニンジンの皮をむいてくれる?」
「うん、わかった」
「じゃあこれ、お願いね」
「よっしゃ、やるか!」
腕まくりなんかして気合い十分の愛斗に、ジャガイモとニンジンを渡す。
渡した野菜を洗った後、皮むき器で皮むきをしていく愛斗。
その様子を見ながら、私もレタス、タマネギ、ベーコンと切っていく。
自分の家ではないということと、何よりも愛斗のそばで料理をするということに、やっぱり少しかたくなる私。
元々あまりうまくはない包丁さばきが、さらにぎこちなくなってしまって思うようにいかない。
横では愛斗が楽しそうに皮むいてるっていうのに。
そんなことを思っているうちに愛斗はあっという間に皮むきを終えてしまった。
「はい、でけたよ~」
「ありがとう」
「次は何すればええの?」
じゃがいもとにんじんを私に差し出しながら、早く次のことがしたい様子の愛斗。
そんな愛斗に少し困惑する私。
「そうだな~、今はいいや。」
「なんかやりたい」
「でも今は手伝ってもらうことないんだよねぇ」
本当は手伝ってもらえることもある。
でも愛斗がそばにいると料理が逆に進まなくなってしまいそうだから。
残念そうにしている愛斗の顔を見ると少し胸が痛むけど、これもおいしい料理を食べてもらうため。
746 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2008/06/24(火) 07:54:35.37 O
「じゃあここで見てる」
心の中で愛斗に謝ってたら、いきなり思いも寄らないことを言われた。
「それはやめて」
考えもせず即答する私。
「なんで?」
「なんでって、見られてたらやりづらいでしょうが~」
「俺のことは気にせんでええから」
気になるに決まってるじゃない。
そばにいるだけでも気になるっていうのに、見られてたら料理なんかできるわけない。
「いやいや、気になるからぁ。あっちでテレビでも観ててよ」
「えー」
「えーとか言わない。ほらほらあっちに行ってて、後でまたてつだってもらうから。ねっ?」
「…あいよ」
無理やり愛斗の背中を押しながらリビングへと連れて行く。
初めは抵抗していた愛斗も渋々了解してくれてソファに座った。
キッチンに戻った私は、リビングからテレビの音が聞こえてくるのを確認して、再びスープづくりに取りかかった。
材料を切り終え、少し炒めていく。
愛斗に見られていない分少し気が楽になり、作業のペースもあがっていった。
うん、いい調子。
順調に作業が進み、材料を煮込み始めた時だった。
なんだか後ろからの気配と熱い視線を感じた。
嫌な予感がして振り返ってみると柱の陰からこっちを見て"まずい"って顔をした愛斗と目があった。
747 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2008/06/24(火) 07:56:53.74 O
「ちょっと愛斗!見ないでって言ったでしょーが」
「あっ、バレた?」
「バレバレだらか、いいかげんにしなさい」
見ないでって言ったのに。ほんとに油断もスキもあったもんじゃない。
「ええやん、少しくらい」
「よくないからぁ」
「なんでやの」
「…」
口をとがらせる愛斗に一瞬黙ってしまう私。
「だってさぁ、見られてたら恥ずかしいし…なんか緊張しちゃうじゃん…」
「なんで緊張すんの?」
そんなこと…言わなくても察してよ。ほんとに鈍感なんだから愛斗は。
「なんでって…料理そんなに上手じゃないし…しかも愛斗の家でやるなんてドキドキなんだからぁ。
家族以外の人に作るのって初めてだし、ましてや相手が愛斗だもん。おいしいの作ってあげたいって思うのに。
見られてたら余計に出来なくなっちゃうよ…」
自分で言ってて恥ずかしくなった。こんなこと言うつもりなかったのに…
きっと私の顔は今真っ赤に違いない。
「ガキさん!」
恥ずかしくて愛斗の顔が見れずにいると、不意に手を引っ張られ抱きしめられた。
748 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2008/06/24(火) 07:58:14.31 O
「なっ!ちょっとなに急に。危ないでしょうがぁ、あ、愛斗」
「ごめん。ガキさんがあまりにも可愛いからつい」
「何言って…」
「そんなこと言われてこんな表情されたら抱きしめたくもなってまうよ」
「…」
抱きしめる愛斗の力強さが、耳元から聞こえる優しい声が、かたくなっていた私の体の力をなくしていく。
愛斗の温もりを感じて速くなっていく鼓動。
数秒後、ゆっくりと体が離れたかと思うと、肩においた愛斗の手に力が入る。
ドキドキしながらも少し顔を上げると、愛斗が私をまっすぐ見ながら優しく微笑んでいた。
「大丈夫や。ガキさんの料理絶対おいしいから!」
「食べでもいないのに何でわかるの」
「わかるよ。だってガキさんの愛情がたっぷりこもってるから。俺にとっては最高のごちそうやもん。
どんなもんやってまずいわけないやろ」
そう言うとニコッと笑う愛斗。
その笑顔と言葉に、まるで魔法にでもかかったように私の中にあった緊張や不安が少しずつとけていった。
「愛斗…ありがと」
「ガキさん…」
ハニカミながら愛斗を見つめ返すと、愛斗の笑顔が真剣な表情へと変わっていく。
そして徐々に近づいてくる愛斗の顔、一気に跳ね上がる私の心臓。
なんだかのぼせてしまいそうなくらい体が熱い。
「ス、ストップ!」
あと少しで唇が触れるというところで、思わず愛斗の胸を押し返し体を離した。
749 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2008/06/24(火) 08:03:43.44 O
「なんやの」
「りょ…料理、作らないと、ほら、ねっ?」
「あ、そうか」
「あと少しでスープ出来るし」
「見ててもい…」
「ダメだから」
「あっ、やっぱり」
やっぱり恥ずかしいもん。
でも、手伝いくらいはしてもらってもいいかな。
なんてちょっぴり思えるようにはなった。
愛斗は私の気持ちを分かってくれたのか、それ以上は言わずにリビングへと戻ろうとする。
けれども途中で立ち止まり、再び私のほうを向いた。
「そうだ、デザート作ってようかな」
「あぁ!そうだね。デザート作っててよ。おいしいの作ってくれるんでしょ?楽しみだなぁ」
そうだった。忘れそうになっていたけど、愛斗がデザートを作ってくれるんだった。
自分のことでいっぱいいっぱいだった。
「そうか?よし!ほんじゃあやるか!」
「うん、頑張って」
気合いを入れる愛斗に向かってガッツポーズをしてみせると、愛斗は笑顔でうなずき
「まかしとけ!」
そう言ってガッツポーズをしかえした。
続く